薬指の約束は社内秘で
このタイミングで販売部に戻れてよかったと思う。
情けないって思うけど、何もなかったような顔をして近くにいることは、きっと耐えられない。

私が経営統括室を離れるとき、葛城さんは何かを言いたそうにしていたけど、開きかけた唇が言葉を発することはなくて、正直ほっとした。

言い訳や謝罪の言葉なんて聞きたくなった。

『なかったことにしてほしい』

もしそんなことを言われたら、きっと胸が張り裂けてしまう。
でも、なかったことに出来たらどんなに楽だろう。

だから、二人で過ごした時間を思い出す暇もないように平日は仕事を多く引き受けて、週末は友達を誘って遊びに出かけた。


何も知らない美希ちゃんには、『せっかく葛城さんとお近づきになれたのに、アプローチしないなんて、もったいない!』とお説教されてしまい胸が痛んだけれど、

あんなに好きだった瑞樹を忘れることもできたんだから、きっと今回だって大丈夫。時間が解決してくれる。
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