薬指の約束は社内秘で
でもそれを気にするよりも、ここに存在するはずがない彼と会えたことの嬉しさと戸惑いが入り混じる複雑な気持ちになって、スーツのジャケットをキュッと掴むと、


「愛」

優生の瞳が私を見下ろして見つめ合う一瞬。
しめたとばかりに目の前の彼は足早に立ち去り、優生からチッと舌打ちが漏れた。


眉間に皺を刻んだ顔をそっと見上げる。

久しぶりに見る愛おしい顔はお酒を飲んだかのように赤く染まっていて、少し息も上がっているように見えた。


お酒が回った頭でぼんやりと彼の顔を眺めていたら、「行くぞ」と左手首を掴まれて、歩幅を大きく取った彼に引きずられるように足が前に進み、エレベーターに乗り込む。

庫内には二組のカップルがいて、腕を組んだり、楽しげに会話を弾ませたりしているけれど、私達には会話もなく前を向く彼の瞳には怒りの色さえ滲んで見える。

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