薬指の約束は社内秘で
松田課長が用意してくれた女子用の部屋に戻り、1時間近くの長風呂を終えて女湯を出る。
外出用ではない白地に紺の紫陽花柄の浴衣に着替えて、脱衣所を後にした。

そんなに客室が多くないこの旅館は、0時近くとあって廊下を通り過ぎる人影もなかったから、

スッピン上等。ノーメイクでも、大丈夫だよね?

周りの目を気にすることなく階段を上がり、部屋に戻る途中。ある部屋の扉が僅かに開いてるのに気付く。

あの部屋って確か、課長が男子用に借りてくれた部屋だよね?

なんとなく気になって中を窺うと、うつぶせに倒れる男性の姿にハッと息を呑む。

「大丈夫ですか!?」

慌てて駆け寄って背中をさするようにしていたら、「うーん」という低い唸り声と共に、うつ伏せになった体が横に傾く。

思わず顔をしかめてしまったのは、きついお酒の匂いと横になった勢いで彼の腕が私の膝に乗っかるような体制になってしまったから。

ちょっと、重いし! 

それに浴衣越しの膝の上の頭がくすぐったいし、すごく恥ずかしくなる。

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