薬指の約束は社内秘で
「あのっ」

なんとか膝の上の頭をずらそうとすると、前髪に隠れていた彼の顔が廊下からの細い光に照らされて、微かに寝息を立てる薄い唇に息を呑んだ。

「葛城っさん」

驚きもあって少しだけ声が震える。
すると私の声に反応した彼の長いまつげがピクリと動き、焦点の定まらないぼんやりとした瞳が薄く開いた。

「藤川」と私を呼ぶ声は、なんだかとても弱々しく聞こえる。
消え入りそうなその声に耳を傾けると、

「藤川……愛」

今度は、なぜかフルネームで呼ばれてしまった。

「はい。藤川です」

葛城さんが私の名前をフルネームで知っていたことに少しだけ驚いたけど、そういえば、さっき愛って呼ばれたんだっけ。

そんなことを思っている間も、彼はうつろな瞳で何かを呟き続ける。

「本当に――……藤川?」

その3度目の確認で何かがおかしいと確信した。
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