薬指の約束は社内秘で
もしかしたら酔っているだけでなく、どこか体の調子が悪いのかもしれない。

「どうしよう。誰かっ」

助けを呼ぼうと彼の肩に触れた瞬間。
肩に置いた左手が強く引かれて、そのまま抱き合うように床に倒れ込んでしまった。


一瞬のことで何が起きたのか、理解するのに数秒かかる。
いまの私達の状態は、葛城さんを下にして私が抱きつくような形で覆い被さっている。

誰かに見られでもしたら、酔っている彼を私が襲っていると思われても仕方がないと思う。

でも、そんなことよりも一瞬で近づいた距離に、体が金縛りにあったように動けなくなる。
見た目よりも厚い胸板から彼の鼓動が響き伝わると、私のそれもトクンッと静かに加速していって……

薄い浴衣越しから伝わる体温に心臓が壊れそうになるっていうのに、大きな掌が私の背中にまわると、そのまま抱き合うような形で体ごと横に倒れてしまった。

トクンッ

どちらとも分からない鼓動が煩く鳴り響く場所で、うつろな瞳が私だけを見つめる。

彼の空いている左手が私の頬に触れると、

「藤川」

低く掠れた声が暗闇に響くのと同時に、柔らかい感触が落ちてきた。
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