薬指の約束は社内秘で
だから何度も角度を変えて熱いキスを交わしただとか。はだけた浴衣に忍び込む指先だとか。
それは私の話を聞き終えた美希ちゃんが、エッチな妄想を爆走させたにすぎない。

「首筋にキスの後は? えぇっ、終わりですか!? 

いやいや、そんなことないでしょうー。ダメですよぉ、隠したって! 『――何度もキスを重ねて、はだけた浴衣の素肌に彼の指先が』ってことですね! キャ――――!!(以下略)」

と勝手に盛りに盛って盛り上がっただけで、もちろんキスすらされてない。
(しかし昼っぱらから、なぜここまで盛れるのさ?)

他人の話をモリモリに盛り、エッチな妄想を膨らませる美希ちゃんは、とりあえず放置して。
会社からほど近いイタリアンカフェのバジルパスタをパクつきながら、あの日のことを思い返した。

瑞樹と別れてから3年ぶりの温もりは、私の思考を簡単に停止させた。

葛城さんは私の首筋で「藤川」と4度目の名前を呼んだ後、微かな寝息を立てて眠りについてしまったから、
停止した思考を動かしてくれたのは、葛城さんを探しに来た女子みんなの声だった。

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