身代わり王子にご用心
ところが、椅子を並べてるスタッフの数が少ない。女の子一人で両手に椅子を抱えてるから、見ていられなくて申し出る。
「よかったらお手伝いしますよ」
「え、でも……いいんですか? せっかく綺麗な格好をしてらっしゃるのに」
濃いめのブラウンの髪を後ろで三つ編みした女の子は、額の汗を拭いつつ遠慮がちに言う。日本人らしい一重の瞳だけど、猫みたいな瞳がとってもチャーミングに見えた。
「だ、大丈夫! それより、一人でやるには大変な作業だから。出来ることがあれば手伝いますよ」
着ている服や小物のトータルのお値段は聞いてないけど、今はお金より人手。困ってる人がいたら放って置けない。
コートとバッグを棚に置いて違う物で隠すと、さあと両手に椅子を持った。
「どこまで並べればいいですか?」
「あ、後ろまではいいです。ここ辺りまであれば」
彼女が示した場所は、椅子が10×10で100人かそこらの席になる。
この広さの上映会にしては小規模だなぁ、って思いながら会場作りを手伝った。