身代わり王子にご用心



警察署には桂木さんの車で向かった。助手席には半ば眠ってる高宮さんで、藤沢さんは隣に座って励ましてくれた。


「私も出来る限りの証言をしますから。きっと犯人をあぶり出しましょうね!」


私の手を握りしめてくれた彼女は力強く宣言するけど、正直な話まだ私は複雑な気持ちでもいた。


今までの嫌がらせの犯人を考えれば、容疑者は自ずと絞られる。十中八九あの人だろうけど。決めつけるのも嫌だった。


(自分から名乗り出て謝ってくれればいいんだけど……たぶん無理だろうな)


警察署に到着した私はパトカーに乗っていた警察官に案内され、簡素な椅子のある一室で女性の刑事さんと初めて対面した。デリケートな事件だから同性を、という理由で気を使って頂いたらしい。


「はじめまして、私は大隅(おおすみ)です。これからよろしくお願いしますね」


黒髪のベリーショートで紺色のジャケットとスカートを着た彼女は、とってもさっぱりした性格らしい。 それなのに丁寧かつ親切で。世間話を交えながら知らず知らず誘導されて必要なことを話してしまった。


「被害届は出しますか? せめて今回だけでも提出された方がいいです。監禁事件に関しては傷害罪になる可能性もありますからね」


現行犯逮捕でもない限り、被害届を出さないと捜査ができないと言われて。自分が本気だと相手に知らしめるために、必要な書類に記入していく。


書き方は大隅刑事が教えてくださったのだけど、咄嗟のことだから押すべき印鑑が手元にない。


だから、明日改めて提出するために出向く約束をすると、日付が変わるか変わらないかの時間に警察署から出た。


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