身代わり王子にご用心



「モモカ、グラタンを作れる材料ってあったかしら?」


私の内心の動揺など知らないように、マリアさんは私に材料の有無を訊ねてくる。


「あっ……待っててください。たしか」


何とかおかしく思われないために、ストックのある食材を順番に思い出す。玉ねぎやジャガイモはシチュー用に買ってあったし、牛乳も小麦粉もあるからホワイトソース作りは……。


「あっ! そういえばバターが……フレンチトーストを焼くので使ってしまって。マーガリンならあるんですけど」

「ホワイトソースはバターでないと香りが出ないわ。それじゃあ買ってきましょうか」

「そ、それなら私が。チーズもないですし」


桂木さんと顔を合わせたくない。ましてや、遅番の藤沢さんが帰宅した後にどんな顔をすればいいのやら。


「待って、ついでだからジュリアの服もいくつか買ってきましょう。ジュリアも新しい服が欲しいわよね?」

「うん!」


朱里ちゃんが勢いよく頷くと、マリアさんは食器とカップを流しに入れて高宮さんに頼む……というか命令した。


「マサユキ、食器を洗っておいてちょうだい。ああ、機械は使っちゃダメよ。洗剤がもったいないから」

「わかりましたよぅ~」


ダイニングテーブルで何故か木彫りのクマを彫っていた高宮さんは、唇を尖らせながらシンクに向かう。そんな彼に苦笑いしながら、マリアさんはとっておきのひと言を忘れない。


「ちゃんと洗えてたら、買ってきたプリンをあげるから」

「やったー! 絶対、忘れないでくれよ」


ふんふん、と鼻歌まで飛び出すしまつの高宮さんの単純さに呆れながらも、朱里ちゃんやマリアさんと連れだってマンションを出た。


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