身代わり王子にご用心



「そうですけど。もう一つ、大切な夢を忘れてますよ~」


藤沢さんはビシッ! と私の鼻に指先を突きつける。


「えっ……何があったっけ?」


初めて抱いた夢については、もうすっかり話したと思うけど?


すると、藤沢さんはおおき~なため息を着きましたよ。


「とぼけないでください! カイ王子に会いたいんですよね?」


鼻先をちょん、とつつかれて。そういえばそう言って泣いた、と。穴があったら入りたい……いや、むしろ埋まりたい気分になった。


「う、う~……たしかに……会いたいけど」

「そんなに気弱でどうするんですか! 美味しくいただかれちゃっただけの食い逃げは、許されるべきじゃないですよ。おうじだろうが何だろうが、きちんと責任をとらせるべきです」


……い、いただかれちゃったって。食い逃げって。


藤沢さん、あなた一体どこまで知ってるんですか!?


ある意味あなたが一番怖いです!


「まずは28日に来店するカイ王子に会って、話を着けましょう!」


暴走しそうな藤沢さんを止めるべく、私は彼女の腕を掴んで必死に別の話題に切り替えようと試みる。


このままだと本気で突撃しかねないから……。


「そ、そういう藤沢さんは。桂木さんにどんなアピールをするの?」

「えっ……わ、わたしですか?」


桂木さんのことを出したとたん、しおらしく赤くなった頬に手を当てる彼女。


本気で好きなんだなあ……とほのぼのしたけど。


「今度、お食事に誘おうと思うんです」

うんうん。

「次にバーに行ってお酒を」

ふむふむ。

「しこたま飲ませて酔わせて」

ん?

「酔い潰れた桂木さんをホテルに連れ込み、既成事実を作ろうかと」


……ストップ! なんか変、というか犯罪すれすれですってば!


「ほ、本気じゃないよね?」

「やだ~冗談ですよ」

なんてカラカラ笑った藤沢さんの目が……ちょっとマジに見えたのは……気のせいだと思いたいです。


< 314 / 390 >

この作品をシェア

pagetop