身代わり王子にご用心





今夜のホテルはもう予約してある。旧市街地にある歴史あるカッツエ·スティートホテルだ。

駅前通りからからやや外れた場所に位置しているから、タクシーを使おうか、それとも歩こうかと悩む。


日本からインターネットでつくったリッツェ銀行の口座に当分の生活資金は入れてあるけれど、働いてから丸一月経たないとお給料がもらえないらしいから、しばらく贅沢は控えなきゃ。


14時間近い移動時間で本当は今すぐ横になりたいくらい疲れているけど、経済的な事情を考えたら仕方ない。少し休んだら歩いていこう。


バスターミナルから駅前のターミナルに移動し、木製のベンチに腰かけてバッグから取り出した地図を広げる。


(えっと……ホテルまでは駅前通りをしばらく歩いて、赤い建物の郵便局が見えたら右に曲がればいいのね)


ホテルまでの道のりを確認した後、しばらく地図を眺める。


宮殿のあるベルンハイト城の表記があったから、そちらの方をチラッと見る。


丘陵地に建てられ白い城壁に囲まれたベルンハイト城が、遠くでもくっきりと見える。


(あちらに……カイ王子がいるんだ)


胸に下げた紋章の指輪を、キュッと握りしめた。
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