君の世界からわたしが消えても。

 前に、カナは話していた。


 平凡な日常が当たり前に来ていた頃、この場所で、嬉しそうに。


 『これには、美月との思い出が詰まってるんだ』って。


 満面の笑みで言ったカナの手の中におさまっていたのは、携帯電話だった。


 中学生になって両親から買ってもらったそれには、ミヅキとの数々のやりとりが、思い出がたくさん詰まっているんだって、話してた。


 カナの隣にいたミヅキも、恥ずかしそうに笑っていたんだっけ……。


 だけど、事故でカナが大事にしていたその携帯電話は壊れてしまった。


 液晶が割れて、ボロボロのそれに入っていたデータは飛んでしまって、復元できなかったとカナのお母さんが言っていた。


 カナは、自分が携帯電話をどれだけ大事にしていたのかってこと、きっと知らない。


 覚えてない。


 その携帯のメモリーには当然、イチやわたしの名前も残っていたはずだ。


 ミヅキの記憶しか持たない今の状況で、それは幸運というべきか否かはわからないけれど、カナは思いのほか大切なものをたくさん失っている。


 カナの心は今、どれだけの負担を抱えているんだろう。

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