君の世界からわたしが消えても。

 頬に、少し冷たいなにかが触れた。


 だけど、それは戸惑いを孕みながらも、優しかった。


 右頬に触れたのは、葉月の手。


 それに気付けば、震える冷たい指先が、じんわりと温かいように感じられた。


「イチ、ごめん。泣かないで」


 手と同じ、震える声で小さく呟いた葉月。


 そこで初めて、自分が泣いていることに気が付いた。


 悲しいとか、つらいとか、そんな気持ちでいたわけじゃない。


 “イチを好きになればよかった”。


 葉月が言ったこの言葉に、やるせなさを感じただけなんだ。


 泣いたのは、いつぶりだろう。


 確か、美月がいなくなった時以来だ。


 久しぶりに流れた感情の塊は、痛いほどに熱くて、葉月の冷たい手を濡らしていった。

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