君の世界からわたしが消えても。
だけど、これはちゃんと現実で、夢なんかじゃない。
隣に立つ奏汰の頬が赤いこと。
微かに触れた奏汰の体温がいつもより少し、熱いこと。
全部、ちゃんと本物だ。
「新婦、葉月さん。あなたはこれまで育んできた愛情をさらに高め、幸せな家庭を築いていくことを誓いますか?」
「……はい。誓います」
そう、あの日奏汰は言ってくれたの。
『俺と、結婚してください』って。
プロポーズ。
奏汰が入社してから、2年くらい。
こつこつ貯めたお金でその指輪を買えたのが、結婚式の資金が貯まったのが、あの日喫茶店で再会した日だったんだって。
7年も離れていたのに、お互いの気持ちがちゃんと繋がるのかなんて全然わからなかったのに。
奏汰は選んでくれたんだ。
わたしと一緒になることを。
「それではおふたりに伺います。病めるときも健やかなるときも死が二人を別つまで、夫婦であることを誓いますか?」
今日この日が来ることは一生ないって、心のどこかで思ってた。
正直な話、奏汰からのプロポーズは嬉しい反面、素直に喜べない自分もいた。
それは、天国にいるミヅキのことが、頭から離れなかったから。
でも、奏汰はそういうわたしの心の葛藤も全部知った上で、『一緒に生きていきたいんだ』って、奏汰の心にある不安も一緒に打ち明けて言ってくれた。
たくさん話して、これから先のことを一緒に考えて、世間はわたしたちに厳しいだろうことを覚悟して。
ミヅキには天国に行った時、一緒に、一番に、いろいろ報告しようと約束して……。
そうして、今日この日が訪れた。
隣には奏汰がいて、わたしを見ながら照れ臭そうに笑ってる。
それが嬉しくて、悲しいくらいに愛おしい。
目を合わせて、「はい、誓います」と揃った声。
貰ったのは、ピンクゴールドのダイヤの指輪だった。