君の世界からわたしが消えても。

「……美月? どうかした?」


 弱々しい声で話すカナ。


 繰り返された、わたしじゃない名前。


 なに、これ。


 なんでカナはわたしを見て、“ミヅキ”だなんて呼ぶの?


 今まで一度だって、わたしとミヅキを間違えたことなんてなかったのに……。


 空気が止まる。


 時間が止まる。


 わたしは、どうしたらいいの?


 なんて答えるのが、正解?


 カナには今、なにが起こっているの?


 いろいろな可能性が頭を巡り、嫌な予感と不安は大きくなる。


 とどまることを知らずぐるぐる回る感情に、一気に心を支配される。


 ヒュッと息を吸う、嫌な音が喉から聞こえた。


 なにを言えばいいのかわからないはずのわたしの口は、勝手に開いていく。


 誰かに操られているような、心と身体がばらばらになったような、不思議な感覚だった。


「ず、ずっと、待ってたよ。……奏汰」


 自分の意思に反して開いた口。


 ミヅキがカナをそう呼んでいたように、紡いだ彼の名前。


 今まで呼びたくても呼べなかった“奏汰”という彼の名前を、この時初めて口に出した。

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