歌舞伎脚本 老いたる源氏

夕霧3

夕霧 又はぐらかそうとしても、そうはいきませんよ。
源氏 いやいや、そうは言うても雲居の雁と落ち葉の君と
 惟光の娘とも?

夕霧 ええ、いろいろありましたが、今は皆公平に
 通っております。

(トみんなの笑い声が響きます。夕霧、ぐいと盃を飲み干し
真顔で源氏に詰め寄ります)

夕霧 柏木は・・なぜ死んだのでしょうか?父上は何かを知っておられます。
源氏 いや、わしは何も知らん。わしにも何が何だかよく分からぬのじゃ。
(ト場に緊張が走ります。源氏、とまどい)

源氏 柏木は骨の病で死んだのじゃ。それは皆の良く知るところじゃろう。
夕霧 (にじりより)その骨の病をさらに重くした何か原因があるはずです。

源氏 お前はわしに何を言わそうとしておるのかな?
夕霧 私はただ、真実を知りたいだけなのです。
源氏 真実とはどのような?

夕霧 それはわかりませぬ。思えば六条院での蹴鞠の宴の宵に、たまたま女御
 たちの御簾が上がって女三宮のお姿が垣間見えることがありました。柏木も
 私も姫の美しさにはっと驚きましたが、私は速やかに御簾を閉めよと駆け寄
 りました。ところが柏木はぼーっと宮に見とれて突っ立ったままでした。

(夕霧はじっと源氏を見つめますが、源氏は逃れようとしています)
源氏 それは初耳、で?

夕霧 思い返せば父上に、病の兄様朱雀院の、たっての願いというわけで、
 わずか十三の姫君を、どうしたことか正妻に。この噂、若き姫君を憐れむ
 ものの数知れず。(ト恨みを持って睨みます)

源氏 (開き直って)そうだったのか、しらなんだあ!
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