歌舞伎脚本 老いたる源氏

浮舟1

役名
   浮舟
   老尼
   若尼
   若者
   僧都
   小僧

(本舞台三間の間。二重屋台。畳の間二間。箪笥、仏壇、衝立。
居間、ちゃぶ台、上がり石。火打ち窓、土間連子窓。茅葺屋根。
入り口戸、格子窓。
尼寺風装いよろしく。
山遠見、手前草茂く
石灯篭等道具収まる。
老尼と浮舟が読経している。
庭掃く若尼1人。)

老尼と浮舟 然我實成佛以来 久遠若斯 但以方便 教化衆生
令入仏道 作如是説 諸善男子 如来所演経典 皆為度脱衆生
或説己身 或説侘身 或示己身・・・・・

(遠くで鐘の音)
老尼 (鈴を打ち、礼)お勤めご苦労様。お茶にしましょうぞ。

(若尼入り来たり、お茶の用意こなし。
三人居間にてお茶を飲む)

老尼 まだ記憶は戻らぬかな?
浮舟 まだおぼろげにしか・・・・・。
老尼 なくした娘の身代わりに、初瀬の観音様からのお預かり、
 尼にしてくれと言うばかり、いかなる秘密があるのやら。

(ト入り口に狩衣姿の若者来たりて)
若者 なにとぞこの文を姫へ。

(若尼、受け取り老尼へ手渡す)
老尼 亡き娘の婿殿じゃ。ようしてくれる。(ト文を開き浮舟を見やる)
 何か返事を渡さねば、礼を失することになりまする。

(浮舟ゆるりと身をずらし)
浮舟 まだなにも。やっと手習いはじめしところ・・・。
老尼 まあ無理もなかろうて。

(ト立ち上がり入口戸へ)
老尼 いつも心遣いありがとう存じます。姫はあの通り病未だ言えず、
 気長にお付き合いくだされ。

(若者、礼して去る)
老尼 (ため息)少しは回復したとはいえ、まだまだじゃ。
(ト仏間で旅支度を整え居間へ)
老尼 では初瀬に行ってまいる。
(ト老尼出ていく)

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