歌舞伎脚本 老いたる源氏

浮舟2

(浮舟、仏間に戻り拝む。若尼、庭を掃きつづける。
ト僧都と小僧が現れる)

僧都 ああ疲れた。すこし休もう。妹尼は?
若尼 初瀬にお参りに行かれました。

(そこに浮舟急ぎ現れ)
浮舟 僧都様折り入ってお頼みがございます。

(僧都、驚き。居ずまいを正して)
僧都 どうしたことか浮舟殿?

浮舟 今すぐ落飾をお願いいたします。
(ト気色ばむ。僧都慌てこなし)

僧都 そうは言うても今から中宮のところへ行かねばならぬ。
 その帰りではいかんかな?妹尼もおらんことやしな。

浮舟 なりませぬ!老尼のおられぬ今でなければなりませぬ。
 後生ですから、なにとぞ落飾を。

(僧都、圧倒され、しばしとまどい、意を決して)
僧都 ならば今すぐ。

(袈裟を浮舟にかけ、衝立に髪を預けます。小僧が三宝に
鋏を載せてきます。僧都は鋏を受け取り浮舟三宝を支えます。
小僧が若尼から鈴を受け取り7つ打ちます)

僧都と小僧 爾時佛告 大菩薩衆 諸善男子 今當分明
 宣語汝等 是諸世界 若着微塵 及不着者 儘以為塵
 一塵一劫 我成仏已來 ・・・・・。

(僧都、読経しながら浮舟の髪を切ります。かなり難渋しながら
やっと切りそろえます)
 ・・・・・得入無上道 即成就佛身。

(浮舟三宝に髪を支えたもち、小僧が鈴を打ち全員三拝し受戒終わる)

僧都 ああいそがし。急ぎ宮中へ参る。あときれいに切りそろえるべし。
 ではごめん。

(僧都と小僧急ぎ出ていく。若尼がきれいに切りそろえています。ト
そこに老尼が帰ってきて浮舟を見、驚き慌てとまどい思い入れこなし)

老尼 よよよ、これはどうしたこと?
浮舟 (慌てひれ伏し)どうしても出家を。この思い入れ片時もたがわず。
 今この時と僧都様にお願い申し上げました。

(ト泣き伏す。老尼怒り去りあはれ催す。よよよと駆けより髪を撫で)
老尼 死をも覚悟しこの宇治川に、身をば投げ入れどうしたことか、
 生きながらえて、ええいままよ。出家なさるはこの世の定め、
 何人たりとも、せんなきことよの。

(トともに泣き伏す)

                     第七幕 幕 つなぎ
< 32 / 33 >

この作品をシェア

pagetop