野良の明日
放課後、「ずるい」と、しつこいぐらいに文句を言ってきた岩倉と別れ、俺は正門を出る。
病院は予約してないから、早く行かないと。
少しだけ駆け足になって、角を曲がったその時――――
「おいコラァ。いい加減泣き止めテメェ」
ドスの効いた低い声。
うおっ。驚いてビクリと肩がはねた。
目の前には、背の高い黒髪の男。
その顔は後ろ姿で見えないが、何か見下ろしているらしい。
苛立たしげに足で地面を踏みたたき、その"何か"に怒鳴っている。
な、なんだ…?
バクバク鳴る心臓が痛い。落ち着け、俺。
道の真ん中で行われているその行為は嫌でも目立つ。
彼らは気づいていないようだが、野次馬があちらこちらに見受けられた。
俺もその中に混じって様子を見る。
「だから、俺は知らねぇって言ってんだ」
男が怒鳴る。その怒声の合間に微かだが、嗚咽が聞こえた
誰か泣いているのか。そういえば泣き止めって…。
少しだけ、野次馬の中から頭一つ抜け出して、男の陰に隠れる何かを見た。
それは幼い少女だった。
「なっ…」
あんな幼女相手に怒鳴ってたのか…
俺は唖然として、不機嫌な男を見つめた。