反比例の法則



サマータイムでアフター5はたっぷりあるし、自宅に帰った所で独り暮らしだから時間を持て余す。

これは、行くしかないわよね?


自分に言い聞かせるように、チケットに書かれている場所へと向かう事にした。



オフィス街を抜け、大通りを渡り、駅構内へと足を進めた。


すると、毎日見ている筈なのに気が付かなかった公演の広告が、駅構内のあちらこちらに貼られている。

毎日通勤で通っているのに、全く記憶がない。


……それもその筈。

私は毎日iPodで音楽を聴きながら、前を歩くサラリーマンの足元を見ている。

競歩に近いスピードで歩くサラリーマンの波に呑まれまいと、いつしか身についた技でもある。


前を歩くサラリーマンの背中を眺めていた時もあるけど、階段や曲がり角で必ずと言っていいほど躓く。

だから、自然と培ったようなもの。

見知らぬ人と目を合わせなくて済むし、意外と効率的と言えばそうなのかもしれない。

マイペースの私には最善の方法だと思う。



ホームで電車が来るのを待っている間、私は巨大ポスターを眺めていた。



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