聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
行きかう魔月たちに見つからないようひょいひょいと身を隠しながら進むうち、この曲がり方だと次の棟はどうあり、どのあたりが回廊となるか―すでにパールの頭の中にはこの城の地図ができあがっていた。

この構造と魔月の動きからすれば、城主は今、最上階の自室にいるだろう。

―さて、どうするか。

ただ逃げるなんて、こちらの腹が収まらない。一月も不自由な生活を強いられたのだ。必ず一矢報いてやる。―こういうところはさすがフレイアの弟である。

パールは城を歩きまわり、二階のある部分に異様な熱気が漂ってくる妙な部屋をみつけた。

そこはすべてを真っ赤に照り返す部屋だった。

一階部分までを貫いて広く取られた空間に、一面ぐつぐつと煮えたぎる溶岩が流し込まれているのだ。二階部分に足場があり、そこに長い鉄の棒が何本も並べられ、何に使うものなのか巨大なハンマーも置いてある。

パールはこれをこう推測した。この城の主は鉄を溶かしてハンマーで好みの形に整えるのが趣味なのだと。ひょっとしたらそれを食べるのかもしれない。わざわざそのためにこの部屋をつくったのだ。

パールはにやりと笑った。

「力仕事は苦手なんだけど」

パールはハンマーに手を伸ばした。
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