聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「なぁに、セラフィム様。辛い? 何か僕にできることがあるかな?」

何もないことはわかっていた。わかっていたが、尋ねずにいられない。そんなフューリィの言葉を聞いて、セラフィムの険しかった瞳が一瞬和んだ。

「大丈夫です。それより、もうすぐアクスがプリラヴィツェに着きます」

「アクスさんが? この危険な時期に? なぜ?」

「間違いなく消えない虹のたもとを目指してきているのでしょう。きっと何か切り札となる力を得るために。それだけの力が虹のたもとにはあります。虹のたもとはピューア―私たちの村です」

「ピューア。でも、今、ピューアは………」

フューリィが悲しげに眉根を寄せてうつむいたのには理由がある。

数週間前から彼らの故郷ピューアの村は、魔月軍に完全に敗北し占拠されてしまっていたのだ。

だからフューリィをはじめ村の人々は皆王都ラヴィアに逃げてきているのである。

王太子シュヴァリエが中心となって占拠された町や村に奪回のため軍を差し向けてはいるが、いまだはかばかしい成果はあがっていない。それどころか、今は風竜が王都に現れたために差し向けた兵との連絡ですらろくにとれず、完全に分断されている状態であるという。

「なんとしても、虹のたもとピューアを取り返しに行かなければ」

「でも、セラフィム様は今、ここを離れられないんでしょう? どうするの?」

「確かに、今王都を守る力を弱めるわけにはいきません。ですから力を弱めずにピューアに向かわなくては。方法が………ひとつだけあります」

そう言ったセラフィムの瞳がとても切羽詰って見えたから、フューリィは何かとても嫌な予感がした。

「セラフィム様…?」
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