聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
カイはもどかしかった。言葉とはなんともどかしいものなのだろうか。本当はもっと言いたいことがあったのだ。そばにいてほしいのだと、二度とライトと会わせたくないのだと、好きなのだと、伝えたかった。それらすべてをこの心配という言葉で表せたはずがない。表せたはずがないのに、それ以上言葉が出てこないのだ。

―心配…。

リュティアは心の中で、その言葉を反芻した。

その言葉が胸に沁みわたるのを味わうように、瞳を閉じる。

嬉しかった。それがたとえ妹としてでも嬉しかった。ありがとうと言いたかった。

言いたいのに、言えない。

あの夜のように言いたいのに、言えない。

どうしても、唇が動かない。

なぜ、言えないのだろう。

言えたら…あの夜のように、抱きしめてくれるかも知れないのに…!

瞳を開くと、カイの夜空色の瞳と目が合った。

二人は静かにみつめあった。

二人とも、視線を逸らさなかった。いや、逸らせなかったのだ。磁石のようにひきつけられて、動けなかった。

リュティアは唐突に、こう思った。

―涙が、こぼれたらいいのに…。

そうしたら拭ってくれるかもしれない。指先だけでも、触れてくれるかも知れない。自分の考えの切なさに、泣けてくる。触れてくれるはずがないのだから。

―私たちは兄妹なのだから。
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