聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
サーレマーは二か月前、22歳で牛車に轢かれて亡くなった。

それは陽雨神の涙の時期と一致する。

ハナによれば、一年ほど前から彼は新月のたびに陽雨神に会いにいくようになっていたのだという。

陽雨神の言うサーレマーとは、誰あろう、アクスの弟サーレマーのことのようなのだ。

アクスはサーレマーが五歳の時にピティランドを旅立ったから、彼がどんなふうに成長したのかを知らない。だが餅が大好きで、一生懸命家業を盛りたて、近所の子供の面倒をよく見て、誰からも好かれたことは皆の話ですぐにわかった。

植物の芽が出たと言っては喜び、洗濯ものが乾いたと言っては喜ぶような青年だったという。そして誰もが口をそろえて言った。彼ほど信心深い人間はいなかったと。

絶え間なく視界を切り裂いていく雨が、アクスに五歳のサーレマーの姿を思い起こさせる。

こんな冷たい雨の降る冬の日は、サーレマーを遊びに誘っても絶対に頷かなかった。

『よううしんさまがないていらっしゃるのに、ぼくだけあそぶわけにはいかないよ』

と、澄んだ瞳を空に向けて、雨に濡れるのも構わずに、外で一日中一心に祈っていた。

『よううしんさまが、すこしでもはやく、わらえますように…』

五歳のころからこんなに信心深かったサーレマーだから、成長した彼が陽雨神に会いに行ったとしても何の不思議もないとアクスには思える。

ハナの話では、彼は高熱を出した近所の子供を救うために、決意して陽雨神に会いに行ったのだという。それから陽雨神との間に何があって、毎月通うようになったのだろうか。そして彼はいったい、陽雨神とどんな約束をしたというのだろうか…。
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