聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「なんだこの味は」「なつかしい…」「恵みだ……」男たちが口々にあげる呟きとその表情から、アクスは確信した。彼の祈りは、届いたのだと。

アクス自身も懐から餅を取り出し、かじる。

すると口の中に広がる、甘さ。舌の上に広がる、母の背中で聞く子守唄のような懐かしさ。祈りと共に暮らした歴史、その充実した暮らしの喜びが全身を満たす。平和を愛した人々の想いが伝わってくる。それはサーレマーの願い。サーレマーの祈りの力。

祈りは、伝わるのだ。

「雨と晴れの恵みと共に、遥かな昔から我々はこの大地で生きてきた。この大地にそんな大いなる恵みを与えてくださったのは、陽雨神様だ。目には見えないかもしれない、感じられないかもしれない、だがいつも、彼は私たちを見守ってくださっている。時に涙し、時に笑い、我々を見守って生きてくださっている。どうか皆、感謝の祈りを!!」

女たちがひざまずき、祈り始めた。

男たちの中で、誰が最初に目を閉じたのかはわからない。

だがアクスの目の前で、次々と男たちが目を閉じていった。祈りの形に手を合わせる者もいた。跪く者もいた。最初は白けていた男も、友人の祈る姿に触発されて目を閉じていった。

「おいみんな、どうした、ふざけるな、こんな餅など―」

「いいから食え」

往生際の悪い黒いアクスの口に、アクスは餅を放り込む。

しばらく咀嚼していた黒いアクスは、眉根を寄せ、降り続く雨に手をかざす。

そしてゆっくりと、目を閉じていく…。
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