聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
見開くカイの目が、改めてライトの姿をとらえる。

漆黒のマントをさらりと背に流し、腕を組んだライトの立ち姿。

それは男の目から見ても凛々しく、この上もなくかっこいい。エルラシディア中探しても滅多に見られないほど整った顔立ちをしている。カイの目はそこに幻を映し出す。彼に寄り添うリュティアの幻を。

―お似合いではないか。

その自分の想像にカイは吐き気を覚える。

―いやだ。信じたくない。

カイの中で深い葛藤が荒れ狂う。

―だが事実だ。ライトが〈光の人〉なのだ。

「ライト…ヴィルトゥスはお前の前世の名だ…お前が、生まれ変わった〈光の人〉なんだ…」

カイは苦しかった。

だがリュティアのために。リュティアのためだけに言葉を重ねた。

胸が引き裂かれるような痛みと共に言葉を重ねた。

「目覚めろライト。光の人として…。そしてリュティアに…会え。彼女に、最後の最強の力を、与えるんだ…」

この言葉を言うのに、どれほどの精神力を要したろう。カイが全身から振り絞るようにして発したその言葉に、しかしライトが返したのは冷笑だった。

「ふざけたことを。俺が〈光の人〉で、聖乙女に力を与える? それはありえない。見てわからないのか。俺は彼女の敵だ。俺たちは戦うんだ。いやすでに、戦っている。今この時にも聖なる力と闇の力をぶつけあっているのだから。
それに仮に俺が光の人だったとして、だ。覚醒などしなければ、俺たち魔月の勝ちではないか」

「そんなことは…わかっている。くそ、どうして―」

―どうしてライトなのだ!
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