聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
カイから足音高く遠ざかるライトのもとに、どこからか魔月の戦士たちがそろそろと現れつき従う。

彼らは命令を待っているのだ。

流血を伴う命令を。

彼らの願いを、そろそろ叶えてやってもよいだろう。

「―城には飽きた。出陣する」





その漆黒のまなざしが、戦場を映し出す。

彼が見据えるもの。―――血と悲鳴。

その剣が、戦場にひらめく。

彼が求めるもの。―――破壊と殺戮。

そのひるがえるマントが、戦場を駆け巡る。

彼が背負うもの。―――孤独。

ついにウルザザードの結界は破れ、王の集落がなすすべもなく魔月の群れに覆い尽くされていく…。その天幕の赤は燃え盛る炎の赤か、血の赤か…。

王の首はライトの手によって無情にも切り離され、生き残った者たちへの見せしめとして集落の入口にさらされた。

しかし、その王の首よりも、魔月たちの先頭で鬼神の如く戦い貪るように命を奪った少年の姿こそが、人々の胸に消えない恐怖を刻んだ。炎をまとい雷を放ち、無数の魔月を従えた彼はまさに、魔月王。人々に死をもたらす〈猛き竜〉そのものであった。

もう、彼を止められる者は、いないのだろうか。
< 89 / 172 >

この作品をシェア

pagetop