聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
リュティアは自由になる首をめぐらせ、視線を投げて、ひとつひとつ自分を取り巻く状況を確認した。

黒光りする壁。そのあちこちに工具のようなものが掛けられていることからここはどこかの城の何かの作業部屋なのだろう。

どうやら鋼鉄でできた作業台の上にリュティアは鎖で両手両足を括りつけられているようだ。

鋼鉄といえば…魔月の王国グランディオム。パールの言うとおり、本当にここはグランディオムの、四魔月将の居城なのかも知れない…。

だとしたらあまりにも大変な事態だ。

額に額飾りの感触はなく、錫杖も見当たらない。

左手には変わらず虹の指輪が輝いているものの、聖具はふたつも魔月の手に渡ってしまったということになる。

しかもパールは、ライトがここに来ると言っていなかったか!? それが本当なら、聖具は破壊されてしまう。

そうなれば世界を包んでいた結界や守りの力がなくなる。なんということだ。

―なぜパールがこんなことを…!?

その疑問が嵐のようにリュティアの中で吹き荒れたが、今はそれどころではなかった。逃げなければ、強くそう思った。逃げて、なんとしても聖具を取り返さねばならない。

しかし両手両足を拘束され、身動きのならないこの状況。

絶望的だ。もしこのまま逃げられなければ、なすすべもなく自分は殺されるだろう。恐怖が暗雲のようにリュティアの中にたちこめたが、リュティアは大きく首を左右に振ってそれを振り払おうとした。

諦めるわけにはいかなかった。自分一人の命の問題ではないのだ。世界の命運がかかっているのだ。絶望などしている場合ではないのだ。
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