聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
第五章 すれちがい

ライトの作戦通り、魔月たちは大将クラスの魔月を中心にまとまった軍をつくり、世界中に散らばった。

世界各地で鳥や馬や猫などの動物たちが赤き角持つ魔月へと変貌を遂げ、人々に襲い掛かっていた。

消えない虹の架かる空の下、いよいよエルラシディア大陸中に激しい戦火が広がろうとしていた。永久なる花園、フローテュリア王国も例外ではなかった。

噴き上がる血しぶき、響く怒号、聖なる力と闇の力の命を賭けたぶつかり合いが、フローテュリア王都を囲んでいた。

あちらで聖なる武器が魔月を貫けば、こちらで邪悪なる牙が人の肉を噛みちぎる。

そんな凄惨な戦場の鬨の声がわずかに届く場所、大天幕の中に、朗々とした声が響く。

「知っての通り、我々の住む王都は背後を森に囲まれ、あとは平野に囲まれています。森に面した背後に門はなく、西、東、南―つまり正面に要となる門があります。我々が今いる本陣がここ、正門前です。森の中から襲ってくる魔月に備えて背後に兵を1000、西、東、正門をすべて守るように2000の兵を配しています。敵は正面に500、背後に300ほどと見られます」

現在フローテュリア軍は、迅速に指示や救護にあたるために、戦場に近い正門前に本拠地を設けている。

総大将ラミアードの大天幕のほか、大小の武将の天幕、医療用大天幕などが等間隔に配され、これらすべてをさして本陣と呼ぶ。

その本陣の中のラミアードの大天幕の中に今、王国の重鎮たちが円陣を組んで顔をそろえている。

一段高くなった上座に国王ラミアード。その右隣に陸軍総帥グラヴァウン。そして左隣がこの声の持ち主宰相フリードだ。
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