となりの庭。
「ちょっと手がすべっちゃって。死んだと思っているでしょう。」

母が父の肩を足でドンッと蹴飛ばした。

父が、のそりと起き上がった。

「生きてるって。人殺しなんかするはずないでしょう。前科者にはなりたくないもの。」

母は、にっこりと微笑んだ。

母は、さっきからずっと笑っているが、さらに笑顔になった感じだ。

「なんかちょっと寝ちゃったみたいだ。」

起き上がった父がつられて笑った。

いつ寝たんだ。頭をぶったたかれて寝たのか? それって寝たことになるのか?

頭から血がドクドクと流れているのに笑うな怖い。

父は頭をツルリとなでて、へへっと照れ笑いをしたが、その時、手についた鮮血を見てギャッと言って、また寝そうになった。

自分が流血しているのに気がついていなかったようだ。

なるほどね、納得だ。どうりで冷静。

今は死にそうだけど。

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