TRIGGER!
 なるほどな、と、彩香は納得する。


「逃がさなきゃならねぇ奴を、あっちの世界を通って逃がすってのは・・・考えたな。どんだけ金を積んでも逃げたい奴なんて、山程いるだろうしな」


 峯口はニコニコしながら、頷いている。
 否定しない所を見ると、彩香の考察は外れてはいないらしい。


「しっかし、どっからあんな“ドア”、見つけたんだよ?」


 至って素朴な疑問を、彩香は峯口にぶつける。
 相変わらず頬杖をついてタバコをふかしながら、峯口はそうだなぁ、と呟いた。


「10年前に、ここいらで大きな戦いがあったんだよ。俺は少しだけ、関わってた」


 はぁ? と、彩香は首を傾げる。
 だが峯口は続けた。


「戦いの最後の決着には・・・相当な力と力のぶつかり合いが起きた。最新式の核爆弾が何億もまとまって落ちたような、もの凄い衝撃がな」


 峯口の話が本当なのだとしても、そんな大きな戦争まがいの戦いなら、大ニュースになっていてもおかしくない。
 だが彩香の記憶に、そんなものはない。
 すると峯口は笑って。


「確かに戦いが起きたのはこっちの世界での事だった。だが、人には見えないものだったんだよ」
「分からねぇ」
「だろうな。分からねぇのが普通だ、だがそのまま聞いとけ」


 従業員二千人、年商数億円の大企業の社長は今、普通の人間が聞いたら笑い飛ばされる話を、至極真面目にしている。
 だが昨日、あっちの世界を嫌と言う程体感した彩香は、この社長の口から紡ぎ出される信じられないような話を、笑い飛ばす気にはなれなかった。


「まぁとにかくそのもの凄い衝撃は、誰も知らない間に世界を揺さぶった。俺達の住むこっちの世界が、少しだけズレちまうくらいにな」


 あぁ、それでか。
 何処の誰がそんな大きな衝撃を生んだのか知らないが、そのズレた世界が、彩香が昨日行って来た“あっちの世界”なのだ。


「まぁ“ドア”を見つけたのはその少しあとの話なんだがな。俺は、そんなもん見つけたからと言って、別段どうこうするつもりはなかった」
「だけど、いい商売になると思い付いた、と」


 彩香が口を挟むと、峯口は少しだけ間を置いて、それからニッと笑う。
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