TRIGGER!
 つべこべ口答えしねぇで言う事聞け、と、峯口も車の方へ歩き出し。
 このご時世、何処の世界に占いに頼るバカがいるんだ、と彩香は峯口の後を追いながら思う。


「あ、ここにいたな(バカが)」
「何だよ?」
「何でもねぇよ。あたしの雇い主がそうしろっつうんなら従うよ。ただ、スカだったら承知しねぇからな」
「さっきも言ったが、雛子ちゃんの占いは外れねぇ。ただ・・・ちょっと・・・」


 峯口は口の中でモゴモゴと呟く。


「高いんだよなぁ・・・情報料が・・・」


 彩香は、さっき雛子が指を一本立てていたのを思い出す。


「何だよ。10万くらいどうって事ねぇだろ」
「バァカ。お前は雛子ちゃんを甘く見すぎだ。その10倍だ」
「はぁぁぁ!? ひゃく・・・!!」
「その程度の金で大事な部下二人の命が助かるなら安いもんだ。いつもの通り、明日俺の口座に振り込め、陽介」


 いつの間にか車の窓が開いていて、雛子がこっちの話を聞いていた。


「二割引セールとかしねぇの? 雛子ちゃん」
「この世界、情報が命だ。そんなものを安売りしてどうする」


 本当に、峯口は雛子に弱い。
 何か弱みでも握られているのだろうか?
 だが彩香には、そんな事は関係ない。


「おい、インチキ占い師」


 車の屋根に肘を付き、彩香は雛子の顔を覗き込む。


「テメェの占いがもし外れたらどーすんだよ」


 彩香の言葉に、雛子は軽く溜め息をつく。


「俺の占いは外れない。今日陽介の店で、あの黒スーツが俺を見て逃げたのは何故か分かるか?」


 そう言えば。
 クラブ『AYA』で、黒スーツ達は雛子の姿を見た途端に逃げ出していた。


「それはな、俺があいつらを占ってやろうとしたからだ」
「何でそれだけで逃げるんだよ?」


 彩香の質問に、雛子はニヤリと笑う。


「誰だって今夜死ぬと分かれば、怖くもなる」
「雛子ちゃんはなぁ、繁華街じゃ『黒い魔女』って呼ばれてるんだよ。雛子ちゃんに『お前は明日死ぬ』って言われたら必ずその通りになるからなぁ」


 峯口がそう補足する。


「だからな、繁華街のゴロツキどもは雛子ちゃんの姿を見るだけで逃げ出しちまう」
「・・・・・・」


 開いた口が塞がらない彩香。
 そんな理由で逃げ出すなんて考えられないが・・・実際黒スーツ達は一目散に目の前から消えたのだ。
 どんだけ怖がられてるんだ、このインチキ占い師は。


「まぁ安心しろ彩香。俺は滅多な事では占いなんてしない。これでもビジネスだ」


 帰るぞ、と雛子が言い、彩香と峯口は車に乗り込んだ。


「やっぱり高いよ・・・負けてよ雛子ちゃん」
「ダメだ」
「これって会社の経費じゃ落ちねぇんだよ・・・俺のヘソクリが・・・お店も改築したいし・・・」
「知るか」
「今度美味しい料理奢ってあげるから♪」
「やかましい」


 結局、マンションに到着するまで、峯口と雛子のこんな会話を、彩香は聞かされる羽目になる。
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