真夜中プリズム

先週までの長く止まない雨のあとから、急に気温がぐんぐん上昇し始めた。まだ梅雨に入ったばかりだっていうのに、まるで真夏のような蒸し暑さだ。

衣替えしたばかりの半袖のブラウスは、風通しが悪くてべたつく肌によくくっつく。緩めたリボンの襟元を引っ張ると、少しだけ、心地いい涼しさが届いた。


梅雨には似合わない、近くて青い晴れた空だ。

こんな日は、やけに、呼吸がし辛くなる。

蒸し暑い空気。生温い風。濃い緑の匂いと、首元を落ちる汗。



「ねえ、昴さ、そんなこと言いながら実はアレ、見てたんじゃないの?」


絵奈が、ついと窓の外を指差した。なんのことだろうとその指の先を目で追いかけると、下の広いグラウンドで緑ラインのジャージを着た1年生が体育の授業を行っていた。

男子はサッカー、女子はなんにもしないでサッカーコートのまわりに集まっている。

数十人の男の子たちが、楽しそうに騒ぎながら走っていた。

ただ、その中で、ボールをもらう度に誰よりも女の子たちの歓声を受けている人が、ひとり。


「ホラ、今ボール渡ったよ。あの子でしょ」

「あー、アレって」

「そ、噂のマナツくんだよ。本当に目立つよねー。なんかオーラが違うんだもん、芸能人みたい」


見る限り、あんまりやる気はなさそうなのに(そもそもそんなにサッカーが上手でもなさそうだ)、周りの女子の声援は、ほとんど全部がその人ひとりに注がれているらしい。

早々にボールを手放したのに、まだ声はやまないまま、注目からは外れないまま。

上から見ている絵奈の視線だって、まるでテレビの中のアイドルを見ているのと同じようなそれ。
< 4 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop