I love you に代わる言葉
16話 一筋の涙~ヒトスジ ノ ナミダ~
 帰宅後、ボク等三人に会話など無く、各々の動作からなる物音だけが木霊していた。
 ボクはシンの部屋のベッド上で、ただ窓外の景色をぼんやりと眺めていた。シンはボクを気遣ってか部屋には入って来なかった。恐らく、リビングに居るんだろう。おねーさんは夕飯の支度でもしていると思う。キッチンから食器のぶつかる音や水音、包丁でまな板をトントン叩く音が、さっきからボクの耳に届いているから。
 おねーさんには悪いけど、今日は夕飯いらないな。そんな気分じゃない。
 あの女に会うまで、平和という時間に身を置いていたのに。言いたい事言って、二人に救われて、多分二度とあいつはボクの前に姿を現す事はない。
 それなのに。
 どうして、こんなに心は満たされない。一体何が、救われずにいる。得体の知れない何かが、ボクの内側から湧き上がる。それを察知しているのに、その正体を掴めずにいる。人影は見えているのに、霧に覆われて霞んでいくような。そんなもどかしさに、顔が険しくなる。あの女が死んでくれれば、ボクは真の意味で解放されるんだろうか――……。
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