I love you に代わる言葉
 ボクは目を細めてシンを軽く睨み付けながら部屋へと足を踏み入れるが、シンと目が合う事はなかった。ズボンの右ポケットに仕舞い込んだラブラドライトの石と、後ろポケットに入れた財布を取り出しテーブルに置くと、ボクはローソファーにドッと座り込んだ。途端、深い溜息と共に僅かに笑みも漏れる。たった今シンを睨み付けておきながらやはり気持ちは浮かれていて、表情は何とも正直だった。今何されても、苛立つ気がしない。
「クールな日生も、そうやって顔が弛む事があるんだな」
 と、ベッドに寝転ぶシンが声を掛けてくる。ほんのさっきまで目を閉じていたのに、いつの間にやらこちらを見て笑っている。
「まぁ、好きだった女と結ばれりゃ、嫌でもそうなるか」
 シンは悪戯な笑みでそう言ったが、急に穏やかな笑みになった。
「――日生。『矛盾が答えで真実』だったろ?」
「え?」
 一瞬、シンが何を言っているのか解らなかったが、その言葉には覚えがあり、記憶を必死に探った。そして辿り着く。今のは確か、花恋さんの過去を全て聞かされた後に、シンが言っていた言葉だ。

『ねーちゃんを救う、それが『本当の目的』で、日生に協力してやる事が『俺の目的』だ』
『あんたなら、姉を救える』

 あの時の言葉を脳内に再生させる。そうすると、シンの言った『答え』と『真実』が自然と見えてくる。見えてくるのは、花恋さんの想いを知ったからだろう。花恋さんがボクを好きでいてくれた事――それが答えであり、真実だ。シンがボクに協力すれば、姉を救う事に繋がるからね。――こうして、世界に散らばる偶然が集まり必然となり、最終的に運命と呼ばれるのだろうか。漸くパズルが完成し、見たくて仕方のなかった絵が見える。
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