愛してもいいですか



目標を持っていて、やり甲斐を感じている人……か。

目の前には、沢山のビルと明かり。その数だけ、人がいて、会社があって、働く人々がいる。その中で仕事に疲れ切った人、目標なくなんとなく働く人、苦しみ働く人が、どれほどいるだろう。

それは途方もなく、推測もつかないけれど。



「きっと、少なくはないと思うんです。俺も、目標を見つけるまでは似たようなものだったし。……だからこそ、今の自分は幸せ者だと思うんですよね」

「え?」

「目標を持った社長の一番近くで働けるなんて、秘書としては最高ですから」



日向はあはは、と笑ってこちらを見る。瞳はやっぱり優しく穏やかで、いつもの明るいだけのものとは違う。心にするりと入り込む。そんな、丸い瞳。



秘書としては最高……か。

用意していた言葉なのか、自然体の気持ちなのか。私には、一向にその心が分からない。

だけど、その言葉に感じる気持ちはひとつ。



「……ありがと」



うれしい、気持ち。

私の傍で働けることを、『最高』と言ってくれる。伝える気持ちをしっかりと受け止めてくれる。

少し前まで気に食わなかったはずなのに、悔しいけど、今はその存在に安心している。



こんな男に、誰にも話したことのない気持ちを素直にこぼせた理由。それはきっと、こんな男、だから。

日向だから、素直になれる。本音をこぼせる。



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