愛してもいいですか
「すごい……綺麗!とっても綺麗!」
「でしょう?この前の星空でもすごい喜んでくれたから、ここはもっと気に入るはずだと思って」
「うん、すごい……」
『すごい』、その言葉しか出てこないくらい見事な夜景。テレビでしか見たことないようなキラキラとした明かりは、とても眩しく心をいっぱいにする。
「こんな場所、よく知ってるわね。あ、もしかして女を口説く時に使う場所?」
「そうなんです、『この夜景も綺麗だけど君のほうがもっと綺麗だよ』って言えばもう彼女もイチコロ……って違います。この前行った居酒屋のおっちゃんが昔教えてくれたんですよ」
ノリツッコミをしながら答えると、日向も右隣に立ち同じように街を見下ろす。ひゅう、と吹いた少し冷たい風にその栗色の髪が小さく揺れた。
「……東京は、この時間も明るいのね」
「えぇ。店も会社もまだやってる所は沢山ありますから」
「働く人は大変ねぇ」
「あはは、楽な仕事なんてありませんしね」
笑う横顔は灯りを見つめたまま、不意に息をひとつ吸い込み呟く。
「俺、この場所教えて貰ってから休日にたまに一人でふらっと来たりするんですけど、その度に色々思うんですよね」
「なにを?」
「この街だけでも、沢山の会社があって、社長がいて、社員がいる。その中で目標を持っていて、自分の仕事にやり甲斐を感じている人って、どれだけいるんだろう……って」