愛してもいいですか
仕事が好き。目標は譲れない。まだまだ、頑張りたい。
未来に見えていた“結婚”より、それを選んだ私は、やっぱり間違えていたのかな。
あの時迷わず彼を選べれば、車に残ってその手をつなげば、互いの微かなズレも上手く噛み合わせられたのかな。
家でもお金でもない、私を見てくれる人と出会えたと思った。……だけど、日向の言った通りだった。
『社長って立場をよくわかっていなくて、見て見ぬふりをしているだけじゃないんですか』
『見て見ぬふりで目をそらしていると、いつか向き合った時に泣くはめになりますよ』
見て見ぬふりをしていただけ。互いに気持ちを、上手く丸め込もうとしていただけ。
安心感を感じていたから。それは愛情とは違うものだと、そんな簡単なことにも気がつかずに。
「……はぁ、」
帰り道、小さな溜息をこぼしながら、夜道を歩く。
自宅へと続く閑静な住宅街は、二十二時近くの遅い時刻ということもあり、人の声ひとつもしない。響くのは、コツコツとヒールの音だけ。
……終わっちゃった。
耳に残る彼の『こめん』の一言ばかりが、心の中をぐるくるとめぐる。そんな気持ちを振り払うように、私は自分の顔を両手で挟むようにパンッと勢いよく叩いた。
へこまない!落ち込んでいる暇なんてないんだから!
明日も仕事は忙しいし、予定は沢山あるし……落ち込む暇があるなら出来ることからこなしていかなくちゃ!
自分自身に言い聞かせるに心の中で呟くと、前を向く。