愛してもいいですか
「責めているわけじゃないんです。ただ、そういうところも含めて受け入れられる人が、宝井さんには合うんだろうって、この前のことでよく思いました。正直……俺みたいな一般社員には社長って漠然としかわからなくて、でも段々、世界が違うんだろうってことはわかったから」
互いに、うっすらと感じていた違和感。そしてそれを見ぬふりでいこうとして、やっぱりそんなことは出来なくて。結果、辿り着くのはこの答えだ。
「……俺のほうこそ、ごめん。なかったことにしましょう。お互いのために」
呟いて彼が見せた表情は、笑顔。悲しそうな目をして、だけど私に気を遣わせまいと作られた笑顔。
苦しくなる。自分の答えが正しかったのか、またわからなくなって、そんな顔をさせてごめんと悲しい気持ちでいっぱいになる。
ごめん、ごめんなさい。
想っても上手く言葉にはならなくて、無言のまま小さく頭を下げた。言葉のないその場には、虚しくコーヒーの香りだけが漂っていた。