愛してもいいですか
「……政略結婚ならさせない、って言ってなかったかしら」
「政略結婚ではありません。英三社長の知人のご子息だそうで、以前のパーティで架代社長をお見かけし気に入られたそうです」
お父さんの知人の息子……。『三好健一郎』そう名前の書かれたその人は、私より年下に見える。
まだ若そうで、ホストのような盛った髪型をしている。その見た目からして、確かに政略結婚とは程遠そうだ。
「お相手は在宅勤務のフリーライターなので、家のことは任せて架代さんには仕事を頑張っていただきたいと」
「それってつまり、主夫になりたいってこと?」
「まぁ、そんな感じだと」
「ふーん……」
仕事は私に任せて、自分は家を……。傍から見たら主夫というよりヒモ希望、といった感じもする。
けれど、これからも仕事を続けたい私にとっては悪い条件ではない気もする。
「一度だけでも会ってみてはいかがですか?当日は、私も付添いとして同行いたしますから」
「一度だけでも、ね……」
お見合い、結婚、それらの言葉に浮かび上がるのは、あの日抱き締めてくれた日向の腕。
『架代さんを社長として支えて、一人の女性として愛する人もきっといる』
もしかしたら、それがこの人かもしれない。
会ってみたら、好きになるかもしれない。そう、『もしかしたら』。
「……そうね、わかった」
もしかしたら、もしかしたらと自分に言い聞かせ頷いた。
だけど本音は、“支え愛してくれる人”、それが日向だったらいいのになんて、また諦めきれずにいる。