素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
「音?」


阿部和馬は、お箸を持つ手を止め、ポカンとした顔をした。やっぱり“音”ってだけじゃ分からないかあ。


「うん。あの時の音……」


これなら分かるだろう、と思ったのだけど、


「“あの時”って?」


まだ分からないらしい。それとも、惚けてるんだろうか……


「あの時って何の時だよ? 雨戸の開け閉めとかか?」


どうやら本当に分からないらしい。


「違うわよ。雨戸の音はお互い様だからいいの。困るのは……彼女が来た時の音よ」


そう。阿部和馬には酷く不釣り合いな美人の彼女がいて、時々彼の部屋にやって来る。もちろんそれ自体は構わないのだけど、その日は決まって音が……


微かにではあるけど聞こえて来るんだ。ベッドが軋む音とか、ベッドだという事は今日分かったのだけど、何かと何かが打ち付け合うような音とか、女性の喘ぎ声が……


「それって、もしかして……やってる時の音か?」

「そうよ。何をやってるかは知らないけどね」


もちろん知ってるけど。


「そうかあ。やっぱり聞こえるんだ? 俺はてっきり聞こえないと思ってたんだよなあ」

「何でよ? アパートの壁って薄いのよ?」

「そうだよなあ。でもこっちは全く聞こえないからさあ」

「何が?」

「え? そっちの音がさ」

「はあ?」


阿部和馬は、“こっち”とか“そっち”とか、わけの分からない事を言い出した。

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