STOP
第14話
それは対抗戦初戦の1日前の出来事だった。
授業がすべて終わった後、和人たちサッカー部は軽めの練習を行っていた。
軽く汗をかくことと、これまでやってきたコンビネーションや、ポジショニングを確認することがその日の狙いだった。

30分ほど過ぎたとき、教頭先生が血相を変えてグラウンドに走ってきた。
「楠田先生、ちょっと。」
言いながら顧問の楠田の方へ寄って行き、何やら話しかけた。
すると、楠田は大きな声で和人を呼んだ。
「橘、こっちへ来い!」
「はい。」
和人が近付くと楠田は言った。
「教頭先生と一緒に、すぐに滝川病院へ行け。お母さんが意識不明の重体だそうだ。」
「えっ…」
「急いで着替えてこい。気をしっかり持つんだぞ。」
「は、はい。」
和人は部室へと走って行き、すぐに着替えて教頭先生と駐車場の方へ行った。

楠田はサッカー部員を集めた。
「実は、橘のお母さんが倒れて病院に運ばれた。病名とかはっきりしたことはわからんが、意識不明の重体だそうだ。私もこれから病院へ行ってみる。」
部員は誰も口を開かず楠田の話を神妙に聞いていた。
「明日の試合だが…、おそらく橘は出られないだろう。橘のポジション、センターバックの位置には澤田が入れ。左サイドバックは…。」
「先生、そこには桑田がいいと思います。この半月ずっとそのポジションを練習してきましたから。」
英が進言すると、
「そうか、じゃとりあえずそれでいこう。明日の集合時間はわかっているな、校門前に8時だ。清水、後の練習は任せたぞ。」
そう言うと楠田も駐車場の方へ走って行った。

「橘先輩が出られないのはやばいですよね。」
2年の松永が切り出した。
「いや、まだ出られないと決まったわけじゃない。お母さんの意識が戻るかもしれないし。」
と清水。
「仮に意識が戻ったとしても、出られないと思う。なあ清水、桑田を入れてちょっとディフェンスの練習をしてみようぜ。」
英がそう言うと、
「冷たいなあ英、お前と和人は親友だろ?」
「親友だけど、どうにもならないじゃないか。それとも試合を欠場するか?」
「欠場するわけないだろ、こんなに練習したのに。わかったよ、まあ最悪のことも想定しないとな。よし桑田を入れて練習するぞ。」
それから1時間ほどディフェンス中心の練習が行われた。

桑田の動きには、誰もが目をみはった。
実に危なげない動きで、ほとんどミスがなかった。
「すごいじゃないか桑田、これなら十分いけるぞ。」
清水が太鼓判を押した。
「だが、自慢のオフサイドトラップは封印だ。こればっかりは練習できなかった。だから明日の試合はたぶん相手に押し込まれる場面が多いと思うんだ。そこを耐えてカウンターで一気に攻める。少ないチャンスを確実に決めなければならないから、清水、お前の出来が大きく試合を左右するぞ。」
英が清水を見つめて言った。
「任せとけって。ディフェンスの裏を突くのは自信があるんだ。あとは英や松永が俺にドンピシャのラストパスを出せばいいんだ。」
清水は自信満々だ。
「そのラストパスが難しいんですけどね」
松永がおどけるとみんな笑った。
「よし、今日はここまで。体操して終ろう。」
その日の練習はこれで終了した。
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