手をのばす
ふいに沙耶の名前が沢渡の口から出たことに、私はひどく動揺した。


そんな自分に驚きながらも、冷静を装いながら

「沙耶、ここに来たの?ひとりで?」

「うん。そのとき江崎さんは?って聞いてみたけど、今日は友達と約束があるから別行動だって言ってたかな、確か」


ともだち?


沙耶に別の友達がいるなんて話は一度も聞いたことがない。

トモダチ・・・。


本当に?




「どうかした?」

急に黙り込んだ私を心配して、沢渡が尋ねた。

「ううん、何でも。コーヒーいただくね」


カップに落としたミルクは、ゆらゆらとゆがんだ円を頼りなく描いた。
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