【短編】失恋した次の瞬間には壁ドンされてました。
「それでね、薫くんの目を見てすごく綺麗だと思った。その目なら泣けたのかな、なんて失礼かもしれないことも考えた。うん、なんていうか、薫くんと私は次元が違うんだよ。別に好きでもないし、だからさ」
「もう、分かったから」

やめようと最後まで言うことが遮られたと思えば、気が付けば抱きしめられていた。その力はとても強くて、とても苦しい。

「痛い」
「そんなの知らない。ただ俺は瑞希のことが好きなだけだよ」

いつの間にか呼び捨てにされている。
またときめいてしまうだろうと理不尽な怒りを覚えた。

「それに、なに、好きじゃない人に向かって、泣くわけ?」

泣くとはなんのことだろうと思ったら、彼の手が頬を滑る。その手には、水滴がついていた。

「誰の涙?」
「お前のだよ」

そんなはずはないと思ったが、どうやら本当に泣いているようだ。頬を伝う感覚が徐々に伝わってくる。その度に彼が、それを拭う。

「なに、そんな下手な嘘ついてまで俺のことが嫌なの?」
「そんなつもりは」

ないんだけど、と伝えようとする自分に驚いた。
嫌なはずだったのに。
初期印象は最悪だったのに。
とても迷惑で仕方なかったのに。

どうやら驚いているのが分かったらしく、口角をあげて笑われた。

「そんなつもりは?」
「……ないんだけど」

そのまま口にしたけれど、とても恥ずかしい。
自分はどうしてしまったのだろうと、瑞希は思い、そしてすぐ振り払う。

「じゃあさ、俺のこと好き?」
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