*悪役オムニバス*【短編集】
「はあ?」
魔法使いは目を剥いた。
ここに残る以外に術がないことを、自分の口から言ってやろうと思っていたのに。
存外にも、この単純思考な白雪姫に先手を打たれた。
「いや、迷惑なのは分かってる。
けど俺、あの城になんか戻りたくないし。
頼むよ、できる仕事はする。
力仕事は得意だし、縫い物も少しならできるから」
白雪姫は額の前で合掌し、魔法使いにそう乞うた。
ここに住まわすもなにも、最初からそのつもりで蘇らせたのだ。
しかしどうやら白雪姫は、魔法使いが単なる温情で自分を蘇らせたのだと勘違いをしているらしい。
つくづくおめでたい姫だ。
しかも、
(姫のくせに力仕事が得意って)
いったい彼女は城の中でどんな生活を送って来たのだろうか。
引き締まった姫らしくない体型から察するに、おそらく、日がな外を走り回ってばかりいたのだろう。
逆にこの姫からは、部屋に引きこもって読書に集中する箱入り娘らしい姿が想像できない。
男装させて、王子として他の国に婿入りさせる、という手もあったのではないか。
魔法使いは心底からそう思った。