*悪役オムニバス*【短編集】
確かに洗脳する手間は省けたかもしれないが、なんとなく、魔法使いは白雪姫に負かされた気分だった。
(まあいい)
魔法使いは、傍らで宙に浮いていた椅子に腰を掛ける。
腕白と言えど、所詮は王家で守られて来た姫君である。
いつか必ず、城での暮らしが恋しくなるだろう。
その時に、心を奪って、完全な人形にしてしまえばいい。
「……名前は?」
魔法使いは訊いた。
白雪姫はしばらく、浮遊する面妖な椅子を眺めた後で、
「ユキノ!」
と、死人とは思えぬほど、元気いっぱいに答えた。
こうして、白雪姫・ユキノと魔法使いの、奇妙な共同生活が始まったのである。