一生に二度の初恋を『あなたへ』


結愛ちゃんは何かを思い付いたように笑ってわたしの肩を両手で叩くと、ポカンと座ったままのわたしを斎藤くんの方向に向けさせた。



「斎藤くん、雨が収まるまで優お願い出来る?」

え?ちょっと結愛ちゃん何言ってるの?


「ん……別にいいけど」


了承しちゃう!?斎藤くん。



「じゃあ速く勉強道具片付けて!!瞬、なっか!!」


結愛ちゃんはわたしの方を向いて『頑張れ』と呟いて軽い足取りで中曽根くんと瞬くんを引っ張る。



「じゃあまたね、尚。高梨さん」

「じゃあな……ってかいってぇよ結愛」


ドアがガチャッと閉まった音が聞こえると、家の中は静まりかえった。

迎えだって…絶対まだ来てないはずなのに。



雨の音だけが耳に入ってくる。


三人がいなくなると一瞬にして空気が変わった。

いやいやいや。ちょっと待ってよ。何でこうなったの。


二人きり――…て。


結愛ちゃんはたまにお節介過ぎるところがあると思う。二人になれたからって何をするわけでもないし…。


まだわたし、急に訪れた状況に追いつけてないよ。


そう思ってる一方で少し嬉しく思ってる自分もいるから、やっぱり恋というものは厄介だな、と思う。

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