一生に二度の初恋を『あなたへ』

運転手の人が夜の安全運転をしてくれていたからか、外傷は擦り傷程度だった。


だけどわたしは転んだ拍子に地面に頭を強く打ったらしく、意識不明になって病院に運び込まれた。



というのがお母さんから聞いた事故に合ったときのわたしの状況。


そう、このときのことをこんな他人ごとのように淡々とした口調で言えるのは、わたしが全くこのことを覚えていないから。



事故のショックのせいなのか、何が原因なのか分からないけれど、わたしは全くこの出来事を覚えていない。


そして……事故以前の昔の記憶も何かの記憶が抜け落ちたように、たまに曖昧で怪しいところがある。


でも何かは思い出せないし、そんなに大事なことでもないような気もする。


だって前から仲良かった笑ちゃんのことも、お母さんのことも、その他の人のこともしっかり思い出せる。



これはお母さんにも、病院の医師の人にも、誰にも言ったことがないこと……。


今までずっと隠してきたこと。



『そんなに支障はきたさないし、無意味な心配はかけたくないから言わなくていいよね？』

そうやって今まで自分に言い聞かせて、記憶がないという恐怖を拭ってきた。