カンナの花
「いただきます。」
その日の晩、食卓は冷たかった。ご飯は温かかったけれど、気持ちは冷たくて冷たくて、なぎさは必死に涙を堪えた。茶碗が歪んで見えた。世界も歪んでいた。
夕食を終えて片づけが済んだあと、2階の自分の部屋に戻る姉をなぎさは追った。
「つーちゃん。」
「入れば?」
素っ気ないようなそうでもないような。でも入るなとは言わなかったな、と思い、なぎさは姉の部屋に入って戸を閉めた。
「ねぇ、どうやってわかったの? つーちゃん帰ってきた時どういう状況だったの?」
「今日テスト終わったから、いつもより早く帰ってきたの。いつもは聞けない西条アキのラジオ聞きたくてさ、部屋で聞いてたわけ。3時ごろかなぁ。お隣の島田さんが来たみたいでね。わたし気づかなかったけど、島田さん帰る時は覚えてるな。シロが珍しくかなり吠えてたから。」
「シロが? 島田さんに?」
「そう。珍しいでしょ? そう、で、島田さんが帰ってほどなく、お母さんがわたしの部屋に来て、ちょっと下来てくれないって言うから行ってみたらさ」
「うん。」
なぎさは息をのんだ。
「島田さんが、お宅のご主人が会計事務所の若い子とできてるって言ってきたのって、お母さんが言うわけ。」
「え。島田さんなんで知ってんの」