psi 力ある者 愛の行方 


「……いず……み……」

ベッドに腰掛けたまま、声をかけた。
少し待ってみたけど、泉からの返事は聞こえてこない。
何も言わない相手へ、私は勝手に話しかける。

「私のこと……怒ってる?」

あの日、告白してくれた想い。
それを中途半端なまま放り出して、挙句陸との事で殴ってしまった。

泉は私と陸の事を、いつもどんな気持ちで見ているの?
軽蔑している?

少し経つと、薄っすらと泉の感情が漂ってきた。
グレーがかった暗いブルーのように、寂しさが滲んだ泉の念が私へと伝わってくる。
密閉したはずの容器がかけてしまったように、その隙間から私の心へと感情が入りこんでくる。

力を閉じきる事が、できない。
泉のやりきれない憤りや悲しみの感情が、心の中へと流れ込んでくる。

「……怒ってるよ。すごく……」

椅子から立ち上がる音と共に、泉の声がようやく聞こえてきた。
その声は、言葉と裏腹に寂しさに包まれている。

怪我をした片足を引きずるようにして、泉は私のいるベッドの傍までやって来た。
カーテンの向こう側に、泉が立っているのがわかる。

「あいつと一緒にいてばかりの未知に腹立つし。いつも具合悪そうなのに傍にいる事ができない自分にムカついてる」

泉は、向こう側から真っ白なカーテンをギュッと握り締める。

カーテン越しの泉が、今どんな顔をしているのかはわからない。
けれど、流れ込んでくる心の内は、悲しみに染まっていた。


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